旅の途中

月と気流 


CANON EOS-1V / EF70-200mm F2.8L / RVP100 / 積丹原野にて





あの夜、自分が見たものはいったい何だったのだろうと、今でも不思議に思う。夜半過ぎの原野は妙にざわついていて、弱々しい月の光が彼方の闇を幽かに照らしていた。月と、原野と、自分しか存在しないはずのそこに、まるで何者かの思念が具象化したかのごとき気配を感じたのである。姿形は見えないけれども、何か途方もない「何か」がそこに居るのを感じたのである。私はわけもわからず夢中でカメラをセットし、バルブモードでレリーズを切った。いったいどれくらいの時間レリーズボタンを押していたのか、まったく覚えていない。押すというよりも只ただ握りしめていただけかもしれない。

現像から上がってきたフィルムを見て、言葉を失った。気流が避けて通るほどの「ソレ」は本当にそこに居たのである...。もう一度撮ってみせろと言われても、こんな写真はもう二度と撮ることはできないだろう。少なくとも今の自分には、絶対に。技術的なことはさて置いても、幸せになった人間に天は決して向こうの世界を見せてはくれぬものだ。不幸と苦難の中にいて、必死で何かを願い追い求める者にこそ、天はほんの少し扉を開いて垣間見せてくれるのだと思う。あの夜も、きっとそうだったに違いない。